人々の生活を圧迫するインフレと水・電力・食料の不足【ジンバブエ便りVol.45】

皆さん、こんにちは。ジンバブエ事業担当の堀です。

私は普段、東京本部にてジンバブエ事業をサポートしていますが、2019年11月に事業視察のため、ADRA Japanが教育支援を行っているジンバブエのゴクウェ・ノース(Gokwe North)地区を訪問しました。ゴクウェ・ノース地区は首都ハラレから車で7時間ほどの場所に位置します。

昨今のインフレと現金不足により国内での両替は一切できないと聞いてはいたものの、いざハラレの空港に降り立ち、両替所を覗いてみると、掲示版には主要通貨のレートが示されているにもかかわらず、USDをはじめ一切の通貨の両替ができませんでした。国内に現金がないという事実を突きつけられました。

2019年に入り急速に進んだインフレは深刻であり、一般市民は外国通貨が使えなくなり、国民は2000年代に経験した超ハイパーインフレの再来を恐れています。2019年2月に導入された暫定通過RTGSドルは、当初米ドルと1 USD = 2.5 RTGSドルとされていましたが、11月にはもう1 USD = 約20 RTGSドルにまで跳ね上がり、米国通貨を取得できない人々の生活は非常に厳しくなっています。

国全体としての問題であるインフレに加え、7-8時間車を走らせて向かった事業地、ゴクウェ・ノース地区では、水不足、電力不足、食料不足が深刻でした。

学校建設を行っている小学校では、資材のコンクリートに使用する水を、近くの井戸からバケツに汲み、徒歩で往復して運んでいました。

バケツで近くの井戸から水を運ぶ

チリサ小学校近くのダムからは水がなくなり、干上がった大地が横たわっています。

干上がったダム

クシンガ小学校近くの川も干上がり、延々と、水のない川底が見えるだけです。住民はその川底を掘り、わずかに染み出してくる水をバケツで汲み上げて生活用水として使用しています。

川が近くにないチリサでは、
村で唯一の井戸が、
約1,000世帯の住民の生活を支えていました。

半径にして約15km。

一番混んでいる夜8時頃井戸に水を汲みに行ったら、水を汲んで家に帰ってこられるのは朝4時頃とのこと。徒歩で往復3時間かかる道を水の入ったバケツを持って歩くか、ロバにひいてもらわなければなりません。

井戸に群がる住民

井戸は手動のポンプ式で、住民が絶え間なく水を汲み続けていました。

ジンバブエの大地の下には石炭が多く含まれているため、井戸水にも硫黄成分が溶け出し、また塩分も含まれます。それでも貴重な、唯一頼れる水源。人々の生活がまさにこの一つの井戸にかかっていました。

住民がポンプで絶え間なく水を汲み続けていた

この水不足の原因の一つには、例年では雨季が始まるこの時期にも雨が降らず、源流であるジンバブエとザンビアの国境に流れるザンベジ川から水が供給されないということがあります。

電力が供給されるのは基本的に夜10:00pmから朝4:00amまで。その時間でも、日によっては来ないことも多く、日中は電力供給が一切ありません。

学校では、小さなソーラーパネルを置いて携帯電話を充電するなど電力不足を賄っていますが、決して十分ではありません。学校へ向かう途中、立ち寄らせてもらったスタッフの実家では、家まで電線が引かれているにも関わらず、「去年(2018年)の12月から電気は一度も来ていない。」と同僚はあきらめ顔でした。

電線が通っているが、電気は約1年来ていない

ジンバブエは電力の約70%を水力発電に頼っていますが、ここ最近の渇水により、水力発電による電力供給量が大幅に不足している現状があります。

ジンバブエの主食はメイズ(トウモロコシ)の粉をひいて調理したサザ(粉をお湯で練って作ったお餅のような、固いおかゆのような食べ物)。それを鶏肉やヤギ肉の煮込みと一緒にいただきます。ヤギ肉は臭みがなく、淡泊なサザの味と合い、とても美味しいです。

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食事の支度
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サザとヤギ肉の昼食

このサザも、以前は学校給食として政府から各学校に支給があったものの、食料不足により、現在その配給は止まっており、
家から食事を持ってこられない子どもたちは昼食が食べられません。

ADRA Zimbabweでは、一部の学校で学校給食の提供をしています。ランチを学校で食べられることで、子どもたちはようやく朝と昼、一日二食の食事が確保できます。

学校に向かう途中、病院らしきものは一つも見当たりませんでしたが、小さなクリニックの脇を通りました。一般的な出産もこのクリニックで行われています。

交通手段がない地域なので、最も遠方に住んでいる妊婦は10-15km先のクリニックまで、臨月にもかかわらず出産のために歩く必要があります。そのため、当然皆がクリニックまで歩いて行けるわけでもなく、自宅で出産しようとする人も多くなってしまいますが、政府はその危険性から家での出産は違法としています。

クリニックでできる診察は胎児の心音チェックと血圧測定の2つのみ。ほとんどの妊婦が出産のタイミングまで受診しません。緊急の場合は地区の病院で輸血等を受けることができますが、私たちの事業地であるゴクウェ・ノース地区の面積は
7,268 ㎢と広大です。東京都の3倍以上の面積があるこの地区で病院は一つしかありません。

ゴクウェ・ノース地区を網羅する救急車もこの病院の1台のみ。つまりこの1台が出払ってしまったら、病院には自力で向かうしかありません。緊急時に、車もない中、それほど遠方の病院にどのように向かうのか。想像をしただけで、この地での出産がどれほどリスクを伴い、命がけで行うものなのか、と考えさせられました。

果たしてこのような環境で自分は出産しようと思えるだろうか…。

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ネニュンカ小学校の生徒たち

生きていくために必要な最低限の水、食料等も手に入らず、また、経済破綻によるインフレが人々の生活を脅かしている様を目の当たりにしました。彼らの生活を支えるために、今後私たちに何ができるのか、改めて考えていきたいです。

※この事業は外務省の日本NGO連携無償資金協力と 皆さまからの寄付金で実施しています。

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