こんにちは。ジンバブエに現地事業責任者として駐在している小松です。
今回は現在のジンバブエ経済の話をしたいと思います。
米ドルとジンバブエドルの為替レートのインフレーション
私は新型コロナの世界的流行でADRA Japan本部の指示により、2020年3月に一度日本に帰国しました。
私が帰国したすぐ3月末から、ジンバブエ政府はアメリカ・ドル(US$)と現地通貨であるジンバブエ・ドル(ZW$)の銀行為替レートを固定し、US$1に対してZW$25にしました(ただし、為替レートは取引先によって変動します)。
同時に、2019年6月から禁止されていたUS$の使用が認められ、法的に問題なくUS$とZW$の両方が使えるようになりました。
US$の使用が認められたことで、業者がUS$で海外からガソリンや資材などを購入できるようになったので、ガソリンの購入を待つ長い行列なども見られなくなりました。
また、首都では電気も安定して供給されるようになりました。
しかし、3月末からロックダウン規制が始まり、多くの人が店を閉め、人々の行き来が街から無くなりました。
銀行為替レートは上述の通りUS$1に対してZW$25の固定でしたが、マーケットの為替レートはZW$25を超えるインフレーションが起きていました。
政府は、インフレーションに歯止めをかけるために、為替レートのオークション制を2020年6月から導入しました(参考ページ(rbz.co.zw))。
初めて耳にする政策です。オークションは毎週火曜日に行われます。
US$1に対してZW$25で固定されていた銀行為替レートはオークション制度が始まった6月末は約ZW$57、7月末には約ZW$68、8月には約ZW$80のアメリカ・ドル高、ジンバブエ・ドル安に跳ね上がりました。
インフレーションの歯止めのために導入した為替レートのオークション制度で、かえってインフレーションが進んだかのように見えましたが、2020年8月以降は落ち着き、2021年3月現在でもUS$1に対して約ZW$80で安定するようになりました。
理由は定かではありませんが、ロックダウンにより経済がほとんど動かなかったので、市場(US$の現金の流れ)が安定したのではないかと推測されています。
食料品・生活用品のインフレーション
以下の図は、2019年1月~2021年2月までの、食糧、生活用品、それぞれの平均物価上昇率を表したものです。(参考、ジンバブエ中央銀行のHP)。
グラフを見て分かるように、この2年の間でも大きく物価が変動しています。
これは単に物の価格が変動しただけではなく、使用通貨やUS$とZW$の交換レートに係る政策が大きく影響しています。
例えば、2019年6月の大幅な物価の上昇はUS$の使用が禁止されたためであり、2020年3月の物価上昇は銀行為替レートがUS$1に対してZW$25に固定されたためです。
インフレーションに対応できるように数字を増やす
インフレーションはZW$の紙幣にも影響しました。
2020年1月には約ZW$37で購入できた食パン1斤が、8月には約ZW$80になりました。
今まで利用されていた2ボンドや5ボンドの紙幣では枚数が多くなりすぎるので、5月に10ボンドや6月に20ボンドの紙幣が新たに発行されました。
また、インフレーションは携帯リチャージカード(日本でいう携帯電話用のプリペイドカード)にも影響しました。
為替レートがUS$1対ZW$1のときは、US$5のリチャージカードの購入でしばらくの間、データ通信料や通話料をカバーすることができました。
しかし、インフレーションにより携帯会社もデータ通信料や通話料を値上げしたので、US$5のカードではそこまで通信料と通話料をカバーできなくなりました。
そのため、リチャージカードの販売額は10倍のZW$50とUS$50なみの価値になりました(一方で、なぜかカード自体は約5分の1のサイズに縮小されました)。
更に、政府は、US$とZW$が1対1でなくなり、その差が大きくなったことを受け、US$を表す$の表記を使わないZWLという通貨表記も新たに導入しました。
ZWLとZW$の実態は全く同じですが、本来「ZW$(ジンバブエ:ドル)」は2009年のインフレーションで経済破綻が起きるまで使っていた表記で、そのあと再度自国の通貨を作ったときに表記を「ZWL$(ジンバブエ・ドル)」とし過去と差別化を図ったのですが、実際のところあまり使い分けはされていないので、それぞれの記載が入り混じって存在しています。
インフレーションが故に支払い方も多種多様
ZWLとZW$、ZWL$はどれも同じ意味で、ジンバブエの通貨であるジンバブエ・ドルになります。
しかし、ジンバブエ・ドルという言葉はほぼ耳にすることが無い一方で、次の写真はUS$現金で支払った時の領収書ですが、US$での支払い、ボンドノートでの支払い(ZW$)、Ecocash(エコキャッシュ)など携帯電話のシムカードを使っての支払い(Mobile)、銀行からの振り込み(T/FER)、プリペイドカードやデビットカードによる支払い(SWIPE) など様々な支払い方法があり、支払い方法に応じて、みんな金額とレートを確認し合っています。
少額のUS$1またはZW$1以下の通貨がない・少ないことによる障壁(キャッシュクライシス)
US$の使用は認められたものの、そもそもUS$の紙幣自体がこの国にはほとんどありません。
特に、ZW$1以下の通貨がほぼないことやUS$1などの少額紙幣が余り流通していないことなどで、おつりが特定のマーケットで使用可能な商品券やコインになることもあります。
たまに、US$とZW$が混ざったおつりになることもあります。
食材やガソリンはある
インフレーションが落ち着いた現在は、買い付け騒ぎは起きず、為替レートがUS$1に対してZW$80のアメリカ・ドル高、ジンバブエ・ドル安であってもお店に品物はそろっています。
地元の飲食店なら主食のサザとチキンシチューで、US$1.50です。
ちなみに、このときUS$2を支払ったら50セントのおつりが無いので、ZW$50のおつりが返ってきました。(為替レートはUS$1対ZW$100で計算されていました)
ここまでジンバブエ経済の流れをできる限り分かりやすく伝えてきましたが、ご理解していただけたでしょうか。
最後に、インフレーションはまたいつ起きるか分かりません。
また、銀行にある自分のお金がどうなってしまうのかも信用ができないので、多くの国民が銀行に預けず、家にお金を置いています。
銀行にお金を預けても利息はなく、もし現金を引き出せたとして、銀行によっては引き出し額の合計に対して、2.5%の手数料がかかります。
物価が高くなっても、給料が物価のように上がるわけでもなく、2020年3月にロックダウン規制が始まっても、政府は何一つ保証もしてくれない中で多くの国民が生き延びてきました。
私は、いつも「どうやって生きているんだろうか」と、ジンバブエ人のことを心配しています。
それでも、こうやって私がジンバブエに戻ってきて多くの人の笑顔を見る限り、国民一人一人が見えないところで手をつないで苦境を乗り越えているんだろうなと思うと、ジンバブエ人の強さに心を打たれます。
そのような苦境の中で頑張っているジンバブエの人達に、感染対策をきちんとしつつ、これからも必要な支援を届けられるように活動していきます。
引き続き、ご支援、ご協力をお願いします。
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