ADRAは2015年より、イエメンの人道支援を実施してきました。
この地は、紛争が収束する気配がなく、紛争も長期化し、早くも9年に及ぼうとしています。
ADRAは、イエメンの方々が少しでもかつての暮らしに近付くことを祈りながら、活動しています。
その活動のひとつとして、ADRAでは生計回復の支援を、2022年9月中旬より2023年の4月末までで88世帯を対象に、また、2023年5月1日から9月末までの期間は45世帯を対象に実施しました。
現在は2024年の2月末までの間に、30世帯を対象に生計向上に向けた支援を行なっています。
2022年9月からの支援活動で出会ったのが、45歳のサイードさんでした。
彼は、ラヘジュ県アル・カバイタ郡のター渓谷に住んでいます。
当地は2022年くらいまで、紛争の影響を多く受けていた地域ですが、今では少し落ち着きを取り戻しています。
イエメンの西端には、標高1000mから3000mの山が連なり、紅海とアラビア海からの湿った空気がぶつかり年間300mmくらいの雨が降ります。
ラヘジュ県はこの山脈の南端に位置し、雨によって溜まった地下水の量が他の地域と比べて比較的豊富なため、昔から農業が盛んでした。加えてイエメン第2の都市、アデンが近いため、収穫した農産物を売りやすいという地の利もあります。
そんな土地でサイードさんは、オクラ、ペッパー、トウモロコシ、スイカなどを栽培していました。これらは、一般家庭で消費される日常の野菜で、市場でも需要が高く良く売れます。
農業を営む両親の下に生まれたサイードさんは、家業を継ぐ一方で自動車修理の仕事をしていました。
ある時、車のエンジンのかかりが悪く、バッテリーをチェックしました。その際、バッテリーが突然爆発し、両目の視力を奪われました。
哀しみにくれていた時期もありますが、サイードさんは自らに言い聞かせます。
「自分たちの力で生き、子どもたちを養わなければならない」と。
彼の家族はサイードさんのほかに、30歳の妻、12歳と10歳の息子、6歳と4歳の娘、そしてサイードさんの両親の計8名です。
今日、目の見えない彼の代わりに、奥さんが畑仕事を切り盛りしています。
女性だけではできない仕事の場合は、村の仲間たちに手伝ってもらいます。
仕事の内容にもよりますが、この地域の日当は、収穫の手伝いで2,000円弱、畑を耕したり、植え付け作業では3,500円程度となります。
ADRAは、サイードさんの家族が畑仕事の折に使えるエンジンを贈り、井戸から水を汲み上げるポンプ、そして畑に水をまく際の送水パイプを備えました。
支援が入る前、サードさんは自身が持つ農地の5分の1である0.2haしか耕作できませんでしたが、灌漑用のエンジンが新しくなって水を十分に灌水できるようになったことで、現在は1haの畑全体で作物を作れるようになったと話してくれました。
サイードさんは言います。
「これまで長年使ってきた井戸の汲み上げポンプが数年前に故障して、修理できずにいたんです。わずかな天水を頼りに、自給用の雑穀や野菜を植え、少ないながらもヤギやロバなどの家畜をなんとか飼い続けて、命を繋いできました。今回のADRAのサポートは、大きな力を与えてくれました。」
こうした感謝の声は、私たちの励みになります。ですが、まだまだイエメンは数多くの問題を抱えています。
サイードさんのように、障害を持つ人々は外に出るのが怖いと話してくれました。
爆発や武力衝突から逃げることができないため、怪我をするのではないかと常に怯えながら生活しているのです。
身体的、感覚的、知的な制限があると、それらすべてが暴力から逃れることを妨げてしまいます。
たとえば、聴覚障害者の多くは、何が起きているのか聞き取れず、理解できないため、紛争に巻き込まれて負傷しています。暴力を察知できないことが、人々に大きな不安と心理的苦痛を与え、衰弱させるのです。
ADRAはサイードさんのような方々一人ひとりに寄り添う支援をモットーとしています。引き続き皆様のご支援をよろしくお願いします。
(執筆:広報・マーケティング担当)