国花:桜と石楠花

 法で定められてはいないが、事実上、日本の国花は「桜」と言っても過言ではない。癒しをくれる薄桃色が、春の陽気に誘われて芽吹くのを拝められるのは、日本人の特権である。外国人も、日本のイメージと言えば「さくら」と二つ返事で返って来る。花見を挙って楽しみにするなんて日本人だけかもしれない。それだけ、日本の桜には魅了する何かがあるのだ。

 一方、世界に目を向けてみれば、様々な国花が季節に渡って咲き誇っている。桜に負けを取らない、ネパールの代表を紹介したい。元気をくれる真紅色の「石楠花(しゃくなげ)」だ。ネパール語では「ラリグラス」と言われ、標高の高い山々に咲く。開花時期もまた、トレッキングにベストシーズンだと言われる春だ。ラッパのような形で咲く花が、まりのように集合体となって、木の上に鎮座しているように見え、何とも高貴な感じがする。

ネパールの石楠花

 現地のネパール人は、この花をお金に換える人もいる。首都カトマンズから、バイクで30分も離れない山道に友人と足を運んだ時であった。裸足の子ども3人が自分の顔と同じくらいの真っ赤なそれらを携えて駆け寄って来る。

 「Didi, yo kindinu hai. Dherai ramro cha(お姉さん、これ買ってよ。とってもきれいよ。)」

 ずっと、ここを通る誰かを待っていたのだろう。本来であれば四方八方に向いている花びらが、もう下を向きつつある。木によじ登って取ったのがわかるくらい、髪の毛は乱れて、手にも木くずがひっついていた。見せられた本数はあまりに多すぎて、全部は受け取る気になれなかったが、1本だけ選び、3人でおやつを買えるくらいの金額を手渡した。

 「Aajai kindinu na!(もっと買ってよ!)」

 とせがまれたが、旅路を急いでいたためそれ以上は必要ないとキッパリ断った。脈なしと判断したのか、紙幣をポケットに荒っぽく詰めこんで、次のお客さん探しに走っていった。彼らは強い。子どものうちから、近くにある資源を見つけて自らお金を稼ぐ術を知っている。ラリグラスを商売にできるのは、ネパール人の特権なのかもしれない。

 実は、石楠花は漢方にも使われるようで、山岳地帯の人々は葉や花びらを乾燥させて、煎じてお茶にしている。市場ではあまり出回ることなく、秘薬のような位置づけになっている。実際に飲んでみたが、特別美味しい訳ではなかった。

 花には、それぞれの特有なエネルギーがある。ただそこにあるだけで、人間の心が開ける瞬間がある。春の菜花、梅雨に紫陽花、夏の向日葵、秋の秋桜、冬の椿。四季をカラフルに彩る花々は、私たちの記憶や行事になくてはならないものだ。だから自然と、花の存在を誰もが必要しているように思う。もちろん、ただ眺めるだけではなくて、世界の中には生活する術として活用している人々も少なくない。

 (執筆:渡辺 陽菜)


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