桜の季節になると思い出す。
顔一面しわくちゃにして、大きな口を開けて笑うみんなの顔。あちこちから聞こえる笑い声。
楽しくなるが故の早口の東北弁。大きなブルーシートの上には40人程の喜ぶ住民の方々と手作りのお料理。
見上げれば満開の桜。そして横を見れば立ち並ぶ仮設住宅。

2012年4月。東日本大震災から1年が経過した桜が咲く頃。宮城県山元町のある仮設住宅でお花見を行った。当時設置されていたやまもと復興応援センター(仮設住宅等に住む住民の見守りや、町外県外からの支援活動の受入れ調整を主に実施)と住民の方々で企画したもので、同センターの立ち上げや運営補助をしていたADRAスタッフも一緒に参加した。
仮設住宅が立ち並ぶ敷地内に立派な桜の木があり、その下にみんなで集まった。お料理のほとんどは各自の持ちよりで、料理上手なお母さんたちなのでそれはそれはどれも美味しく、
「あんた、これ味付けなに?」
「失敗したわ、もうちょっとここんとこ煮込めば良かったんだかもしんないけど。」
「んなことねーべした、上手いよ!」「わっはっはっは。」
などと会話が飛び交った。
その瞬間は悲しんでいる人は誰もおらず、皆さん喜色満面であった。
なぜだろう。みんなが笑って楽しそうなのに、その時私は涙が出そうになった。それぞれの住民の方々が背負っているものを知っていたからだろうか。1年もみんなと共に過ごしてきたからだろうか。これから解決していくべき課題に想いを馳せていたからだろうか。いずれにしても、その時の皆さんの笑顔は忘れられないものになった。
今も繋がりを持たせていただいている山元町。昨年は町で開催しているひまわり祭りの畑の一部をお借りして、ADRAで行ったウクライナ支援のための種を蒔いていただいたり、沿岸部の地域のお祭りに協力したりした。
仮設住宅が立っていた場所は今は更地になっていて、桜の木だけが残っている。あの場所に集った皆さんは、今はそれぞれのお住まいで生活されているが、今年も桜を見上げているだろうか。見上げているとしたら、そのお顔が笑っているといいな、と思う。

(執筆:三原千佳)