
東京都、渋谷駅。
JRと京王井の頭線の乗り換え通路に、このバカでかい絵はある。
1日何万人がこの絵の前を通り過ぎるのだろうか。

岡本太郎は大阪万博のシンボルタワー「太陽の塔」や「芸術はバクハツだ!」の言葉で有名な画家である。
彼が描いたもう一つの大作が「明日の神話」。
筆致はカラフルかつポップだが、テーマは「原爆」。
背景にキノコ雲、右下に第五福竜丸、中央に焼けたガイコツを描き、
炸裂した核爆弾によるその凄まじいエネルギーと、業火が描かれ、「戦争」や「核爆弾」の壮絶な現場を描いている。
しかし、この絵はただ核爆弾の悲惨さを訴えているわけではない。
絵の左から右に巨大化するキノコ雲は、眼を持ち、コミカルにキュートに描かれ、ぽこぽこ生まれているようだ。
三美神のような左端ののっぺらぼうは、火中でも楽しく団らんしているみたい。
右下の第五福竜丸は目と足がつき跳ね上がり、まるで生きているみたい。
中央のガイコツは業火に焼かれながらも大きく手を広げ、光り輝き、その目線は斜め上を向いている。
日本は原爆を二回落とされた。
約80年前、我々の先祖は家を失い、地位を失い、友を失い、愛する家族を失い、将来とその希望を失った。
世界中で悪者にされ、けなされ、土地は焼け、原爆症を患い、寿命を削られた。
われわれは全てを失い、子どもから老人まで無数の命が犠牲になった。
その結果、一度世界中に「死んで償え」「なくなった方がいい」と見なされた。
「日本ハ国ゴト滅ンデシマエ」
失ったものは多く、多くのアジア人から恨まれ、得たものは何もない。
しかし、それでも笑うのだ。
そんなときだって希望を失ってはいけない。
核の業火の上だって、放射線障害の苦しみの中だって
親子、兄弟、友人、恋人、夫や妻が死んだって、孤独になって、もし明日死ぬとしたって――――
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もしこの悲しみの上に立ち、それでもこの絵のようにけらけらと笑いあうことが出来たなら、
私はそれを「明日の神話」と呼ぶ―――。
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何かをあきらめそうになったとき、
何かに詰まって、何もかも上手くいかなくて、もうどうしようもないとき、
失敗し、自分が情けなくなったとき、心に余裕がなくなったとき、
この絵を見る。
「前を向け」
岡本太郎に、背中を押されているような、そんな気がする。
(執筆:山田 貴禎)
参考文献:Taro Okamoto Memorial Museum(https://taro-okamoto.or.jp/asunoshinwa/)