ネパールは豊かな自然に恵まれた地であり、人々はそうした恵みを享受しながら自然と共存した生活を送っています。
しかし、一方で、電気やガス、水道などの設備がない村での生活は、家事の一つひとつが重労働になります。その家事の大部分を担っている女性は、体を休める必要がある出産後でも、わずか数日で畑仕事に戻らなければならなかったり、煮炊きに使う薪を拾い集めなければならなかったりするため、体に影響が出てしまうことが少なくありません。
子宮の一部または全体が体外にこぼれ出てしまう子宮脱という症状も、その影響のひとつです。子宮脱に悩まされる女性は、ネパールでも日本でも約10%いると言われています。特にネパールでは、若いうちからこの症状が出てしまうことや、その程度が重くなりやすく、治療を受ける機会がないまま生活している女性が多くいます。毎日重い薪を運ぶことなどで身体に負荷が掛かるなどが原因のひとつとされており、女性の家事における負担軽減は大きな課題です。
そのような状況の中、日本のストーブメーカーであるトヨトミ株式会社をはじめとする有志の企業の支援を受け、日本から調理用ストーブ376基をネパールに送りました。この調理用ストーブを使うことで、女性の薪拾いの負担を軽減し、料理の効率化が図られればという思いからです。
調理用ストーブの配付は、ADRAが強いネットワークを持ち、農村での女性の生活改善に取り組んでいる、ネパール東部地域の第1州とマデシ州内の4郡を対象地域とし、そこで子宮脱で苦しむ女性や、かつて子宮脱を経験した女性376人を配付の対象者に選びました。
2023年2月、配付チームは対象者の住む各地区に向け出発しました。
配付所に集まった女性たちは、まず受付登録を済ませ、次にストーブの特徴や取り扱いに関する説明を受けます。そこでは、調理用ストーブを使うことが生活にどのような利便性があるかについても触れました。その主な内容は、「外に薪拾いに出ずに済むため困難な家事労働が軽減できる」、「灰が舞い上がらなくなるので、家の中が汚れずにすむ」、「燃料となる灯油は市場で容易に手に入れることができる」というようなものです。
こうした説明の後、それぞれの対象者に調理用ストーブが手渡されました。
配付チームは、それぞれの町を周り、同じように説明をしながら合計376基の調理用ストーブすべてを対象者へ配付し終えました。
受け取った女性たちからの喜びの声をいくつかご紹介します。
「我が家では長年、乾燥牛糞と薪を使って料理をしています。 この調理用ストーブのおかげで、薪や牛糞を集める負担が減ることでしょうね。」(マデシ州サルラヒ郡 ジャムナ・デヴィ・サイさん)
「私はリングペッサリーを使用して、子宮脱の合併症がおこらないよう予防しています。この調理用ストーブを使えば、薪を集めてくる労力も減りますし、薪とちがって家の中に灰がひろがりませんね。使いやすくて気に入りました。」 (第1州スンサリ郡 ラトナ・デヴィ・カルミさん)
日本から送られた調理用ストーブ376基は、376人の女性に手渡されました。
彼女たちの家族も合わせると、およそ1,880人が調理用ストーブの恩恵にあずかることになります。
この調理用ストーブが、子宮脱に苦しむ女性たちとその家族の、家事や調理の負担軽減につながればと、願うばかりです。
(執筆:ネパール事業担当 大槻 和弘)