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西ネパールのバルディヤ郡は、栄養状態や水衛生環境に関連する指標が全国平均を下回り、改善が必要なエリアであった。ADRAはこの地域で3年間の健康改善事業に取り組み始め、現在2年目が終わりを迎えようとしている。活動の中で、住民の栄養や水衛生に関する知識・理解の促進を目的とし、健康キャンペーン事業を各自治体で展開し、自治体職員・医療関係者・ボランティアを招集し、地域住民の意識向上に働きかけた。今回はその内、1つのキャンペーン、FCHV(女性地域保健ボランティア)デーの様子を紹介する。
「私たちはお金のために仕事をしているんじゃないのよ!」
水色のサリーを身につけて熱弁する1人女性に、同じ装いの女性たちが100人分の拍手を送った。
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「村を周ると辛い言葉を耳にする。『あ、お金のために働いている人が来た』って。私たちは自分の地域の医療のために朝から晩まで駆け回っている。それなのに、そんな風に言われてしまう」
「自分にだって、家族がいる。食事の支度も、子どものお世話もしなくちゃいけない。それを差し置いてでも、地域の妊婦から連絡があれば足を運ぶんだから」
「私たちは病院の医者よりもずっと働いているのよ」
重なるように、彼女たちの言葉が投げかけられていく。 ネパールでは、政府に登録された女性地域保健ボランティア(通称:FCHV)が、医療施設と住民を繋ぐ役職を担って働いている。村を歩いていると、水色ベースに4輪のシンボルマークをあしらったサリーを身につけた彼女たちを見かける。
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この四重丸には、きちんとした意味がある。一粒の水滴が大きな池に落ちた時、波紋のように広がっていくのをイメージできるだろうか。その水滴は、FCHVである一人ひとりを意味し、彼女らの活動が波及していくことを願ってこのシンボルマークが作成されたのだ。
1輪目はコミュニティ・区レベルから活動が始まることを意味し、2輪目は自治体レベルにまで広がることを示している。3輪目では郡・州レベルまで網羅され、4輪目ではFCHVの活動が国全体に届くことが象徴されている。
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彼女らは、一月Rs.1,000(約1,100円)で24時間365日、地域医療の架け橋となって働いている。母子保健や妊産婦ケアを中心とした医療を地域でサポートしているため、朝昼晩問わず、呼ばれたら自宅訪問をするのが彼らの主な業務となる。
ADRA Japanでは2023年3月より、西ネパールのバルディヤ郡にて、彼女たちへの能力研修を行っている。限られた予算の中で、バルディヤ郡のFCHV835名全員に行き渡るようなワークショップを一斉に行った。
研修では身を乗り出して、時には隣の参加者と笑顔を交わしながらグループワークに参加する彼女たちが輝いて見えた。
「あなたは私の娘のようだわ!」
「また絶対に来なさいよ。今度はごはんを作って待ってるわよ。」
初めて会ったばかりの外国人である私に、そんな風に満面の笑みで言葉をかけてくれるのだった。
誰かの為にできることをしたいという熱意が言葉の端々から伝わってくる。彼女たちは、地域コミュニティから選抜・推薦されて、FCHVとして活動する権利を得る。愛情深くて、責任感と芯が強い集団なのだ。
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そんな彼女たちが声を上げたのは、2024年12月5日のFCHVデーでの一幕だった。
「保健活動におけるFCHVの役割は、健康な社会づくりだ!」
「子どもたちに病気があれば、FCHVがかけつけます!」
腹の底から声を上げているのが良くわかる。目頭が熱くなった。
それに対抗するかのように、FCHVを取りまとめている自治体職員たちも応える。
「FCHVの活動が始まった時、彼女らは1日たったのRs. 25(約28円)で1日中駆け回っていたのを知っていますか?今は、毎年サリーの支給があり、1回の研修やイベントの交通費としてRs. 400(約440円)が支払われています。」
「私たち自治体としても何も対策を考えていない訳ではありません。常に住民の話を聞いて、より良い方向へと改善を試みています。」
そのようなやり取りののち、FCHVも自治体職員たちも共に住民に向けた街頭ラリーを行った。1時間半程の演説会は、喜怒哀楽が全部入り混じっているような濃厚な時間だった。
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この日のイベントは、盛大に祝われ大規模な活動となった。最後に、自治体職員にこんな言葉をいただいた。
「私はもうこの仕事をして32年になる。少しずつだけど変化が見えているのは間違いない。でも、それだけでは足りない問題がはびこっている。どうか、私たちを忘れないで、来年も再来年もこの地を訪れて欲しい」
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私たちの事業は残り1年。果たしてどこまで、彼女たちの波紋を広げるお手伝いができるだろうか。
(執筆:ネパール事業担当 渡辺 陽菜)