ボール1個に6億円超の値が付いた。人道支援活動のために、寄付を集めることに奔走している私にとって、衝撃的な金額である。折しも前日、他団体で同じようにファンドレイジングを担当しているスタッフから、「今年、特に厳しくないですか?」と声がかかったばかりだった。どの団体も、寄付市場の冷え込みを感じている。資金さえ何とかなれば命をつなげるという現場がいくつもあるなかで、たったひとつのボールをめぐって巨額のお金が投じられるというニュースを、私は読み飛ばすことができなかった。
くだんのボールは、アメリカのプロ野球チーム、ドジャーズに所属する大谷翔平選手のホームランボールだ。しかも、ただのホームランではなく、大リーグ史上初の「50-50(50本塁打、50盗塁)」を達成した記念ボールとのこと。どれだけすごいことなのか、AIに質問したところ、パワーとスピードを兼ね備えたきわめて希な選手にしか実現できないことで、歴史的偉業だという説明があった。さらに、唯一無二の限定性に、大谷選手の世界的な人気も相まって、値段が吊り上がったということが分かった。
ただ私はどうしても、その6億円に別の可能性を見てしまう。6億円あれば、土砂崩れで被災したネパールの学校を再建し、ウクライナの寒い冬をガスや電気なしで過ごさなければならない方に、十分な量の燃料を届けることができる。逃げ場がない難民の方を守る手立てにもなるはずだ。環境破壊を食い止める活動にも、必要な資金を回すことができ、財源の心配事を減らせる。寄付を集めるための広報費にも充てることができたら、助け合いの輪を広げることにもなる。
また、ボールと言えば、いつも思い出すことがある。大学2年生のときにスタディーツアーで行ったメキシコ・シティでの出来事だ。ストリートチルドレンが暮らす施設を訪問する途中、手に持っていた空のペットボトルを道行く子どもにねだられた。なんの未練もなかったので、どうぞと渡したら、施設から出てきたときにはサッカーボール代わりになっていた。中にゴミを詰めて重くしており、コンクリートの上をすべる音が耳にざらざらと響いた。
子どもは、ボール1個で夢を見られる。アジアでもアフリカでもそれは同じだ。紛争から逃れてきた子どもたちも、ボールを追いかける時間は、ひととき辛さを忘れて笑顔で過ごすことができる。ならば大人はどうだろう。ボールひとつにかけるお金の10分の1でも、支援活動にまわしたとき、どれだけの笑顔が生まれるか、そんな夢を描けるのは、大人の特権ではないだろうか。その可能性を、私は信じたい。
(広報・ファンドレイジング担当 永井温子)