モンゴル 羊繁殖プロジェクト(第1期)の報告

2024年6月、日本のみなさまの支援を届けた、モンゴル「ファイン・ウール羊繁殖プロジェクト」が終了しました。

上質で柔らかいウールを生産する子羊達の誕生に、地元生産者の熱意も高まりを見せ、既に後続のプロジェクトが始動しています。今回は2022年から2024年までの第1期のプロジェクトの軌跡を、皆さんと一緒に振り返りたいと思います。

そもそも、なんで羊?

1990年代初頭のモンゴルには、ファイン・ウールなどと呼ばれる高品質な羊毛を生産する羊が約50万頭いました。しかし、その後の政治体制の変化によって、政府が優良種の種羊を遊牧民に提供する仕組みが失われ、優良種の数は2022年には1万3000頭まで減少しました。
優良種は一頭から刈り取れる毛の量が他の種より1kg以上多く、同じ重さでもより高値で販売できます。優良種を失った羊飼いは毛質の悪い羊の数を増やす他なく、その数は草原の草が食べつくされるほどになりました。
そこで、モンゴルで優良種の羊を増やすプロジェクトが立ち上がりました。羊飼いの生計が向上することで、結果として羊全体の数を減らし、持続可能な産業への成長を目指すものです。

質の良い羊と草原を取り戻すことが、プロジェクトの目標です!

プロジェクトの軌跡

海外専門家の協力で繁殖を開始!

2022年、オーストラリアで遺伝的価値の高い雄羊が選別され、その羊から採取した冷凍精液5000本がモンゴルに輸入されました。続いて、オーストラリアから招いた獣医師がモンゴルの国家専門機関の獣医師に、高い受精率が見込まれる腹腔鏡人工授精の研修を行いました。この方法により、2023年5月に134頭の子羊が生まれました。

オーストラリア人の指導で腹腔鏡手術に挑む獣医師達

子羊に元気に育ってもらうために

関係者の喜びも束の間、その後生き抜くことができた子羊はわずか38頭でした。母羊が妊娠中に十分な栄養を確保できなかったことや、寒波などによる災害「ソド」が主な原因と考えられ、餌の質と与え方を再考する必要性に迫られました。

プロジェクト2年目の繁殖では栄養価の高いふすまや干し草を購入して、妊娠中の母羊の栄養摂取に気を配りました。この年には人工授精に加えて、胚移植の研修も行われ、2024年春は、生後、元気に生きることができた子羊が141頭に増えました。子羊の毛質も一般的なファイン・ウールの基準を上回っています。

すくすく成長する2024年生まれの子羊達

付加価値の高い羊毛を

プロジェクトでは羊毛の価値を高めるために、ニュージーランドの技術者を招き、羊飼いを対象とした毛刈りの研修を実施しました。正しい方法で刈り取ることにより、より良い状態で採集ができます。商品差別化のための分析も行い、自治体と羊飼いとの会議にて羊毛の販路、需要とのマッチングについて議論を深めました。

また、繫殖の際に遺伝的価値の高い羊を容易に特定できるよう、個体ごとの遺伝情報を管理するデータベース構築も行われました。

包括的な取り組みにより、モンゴルの牧畜業をめぐる環境が少しずつ変化してきています。

羊飼いへの聴き取り調査を細やかに行いました

取り組みは第2期プロジェクトへ

モンゴル政府や関係機関も巻き込んだ第1期プロジェクトは対象地域だけでなく、モンゴル全体の牧畜業界にとって、大きな希望となっています。この成果を次のステップにつなげるため、2024年7月から第2期のプロジェクトが始まりました。第2期では、第1期の2倍規模の繁殖を計画しており、第1期のプロジェクトで生まれた子羊たちも繁殖に参加しています。

 

ADRAでは第2期のプロジェクトについても、日本からの支援を現地に届けています。
引き続き、皆さまからの温かいご支援を、お願いいたします。

ADRAひつじサポーターについては、こちら をご覧ください。

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