パソコンのスクリーンの上で、ひとりでに英語の文章ができあがっています。
「The schedule of the drilling will be…」(掘削スケジュールは…)
少し打ち込むと、カーソルが戻ってスペリングを直し、また文頭に戻って…パソコン越しにタン、タタンとキーボードを打つ音が聞こえてくるようです。
ADRAの東京事務所で働いていると、エチオピアのスタッフとは少しばかり距離があります。オンラインで打ち合わせをするときにも、先方の通信環境を気にして、カメラはオフ。声を聴くことはできるけれど、表情や今日の服装、はたまたどんな風に机に座っているのか、といった生身の情報に触れられる機会はほとんどありません。それでも、会話の端々の笑い声、打って変わってまじめなプロジェクトの説明などから、人となりは伝わってきます。
発言の機会がまだそれほど多くない私にも、会議の前には必ず「Good morning, Yuri!」と名前を呼んで声をかけてくれますし、画面の向こうからいつも小鳥が鳴く声が聞こえてくるので、少しのんびりとした、明るい雰囲気のオフィスを想像したりします。
エチオピアでの支援は簡単なものではありません。家畜の放牧ができなくなるほどの干ばつに見舞われながら、雨季には土がぬかるんで、井戸の掘削作業を一時中断せざるを得なくなったり。自治体や工事会社のやりとりも、日本のようにはスピーディーに進まなかったり。思うようにいかない状況でも、エチオピアのスタッフたちは粘り強く、時には目を見張るような向上心を発揮しながら、プロジェクトを前に進めてくれます。
会議を始める少し前、パソコンを開くと、クラウドで共有された議事次第にエチオピアのスタッフが打ち込みをしている場面に遭遇します。
私は「やってる、やってる」と楽しい気分で画面を覗きます。地球の裏側にいるけれど、「エチオピアで生活する人たちの幸せ」という同じ目標に向かって一緒に取り組んでいる。机を並べる同僚のような感覚が生まれる瞬間です。
(海外事業担当:市川結理)