実は、ハロウィンによく似たお祭りが、ネパールでも開催されていることをご存じでしょうか。毎年8月下旬、カトマンズの先住民と言われるネワール族の間では「ガイジャトラ*」と呼ばれる特有な行事があります。
*ガイジャトラ:ガイは牝牛、ジャトラは祭りを意味します。牝牛は、ネパールでは神聖な動物として祀られており、故人の魂を天国へ導いてくれると言われています。
1年以内に不幸のあったご家族は、牛が先頭の通りを練り歩く行列に参加し、牛や神様の仮装をした子どもたちが街を練り歩きます。踊りに歌、楽器を用いながら、故人への悲しみを分かち合い、心から楽しんで笑おうという意味が込められています。
さらには、道端にも親族を亡くした家族が大きな袋を抱えて行列を待ち構えます。365個の食べ物を用意して、練り歩く家族の子どもたちに渡し、これからの1年間も食事をとることができますようにという願いが込められているのです。
ネパールでは、人が人らしく感情表現することが許されています。喜怒哀楽を表に出すことを躊躇せず、それを受け入れる社会があります。このガイジャトラにも、表れていました。
行列で並ぶ人々の中には、夫の遺影を両手で抱えながら、こぼれる涙を拭って歩く女性がいる一方、思いっきり旗を振りながら飛び跳ねている子どもの姿が見られます。しかし、その光景に対して誰一人として訝しい表情を浮かべることもなく、ただ温かな視線を送っているのでした。
現世に生きる人が、来世の魂に対し、思いを馳せている不思議な空間が広がっているのです。街から漂って来る強いお香の臭いですら、その瞬間を包み込むためのエッセンスのようでした。ネパールでしか味わえない感覚からか、私の腕には鳥肌が立っていたのを今でも思い出します。
ハロウィンの起源にも、悪霊から身を守るために仮装をする由来があるようですが、形は違えど、世界には故人を偲ぶ文化がずっと受け継がれています。ネパールでは、彼らが重んじている宗教・慣習の下で、このガイジャトラというお祭りが大切に守られているのです。
さて、日本のハロウィンにはどんな背景や想いがあるのでしょうか。