NPO法人 アドラ・ジャパン ADRA Japan
ネパール / 母子保健事業 ADRA Japan
Nepal Maternal and Child Health
ネパール / 母子保健事業

支援を必要としているネパールの母子たち

命がけで出産に臨む母親たち

結婚し、授かった子どもを産んで育て、親子が仲良く暮らしていく。世界中のどこであっても、家族の幸せな生活は、守られなければならない基本的な権利のうちの一つです。しかし、世界最貧国のうちの一つであるネパールの、特に山岳部など都心から離れた地域では、そうした私たちにとって「当たり前」とも思えることが叶えられないこともあります。

現在、ネパールの平均寿命は男性65歳、女性69歳とされています(2009年 WHO)。しかし数年前までは、女性のほうが男性より平均寿命が短いという、世界でも稀な国でした。そのおもな理由の一つに、出産の際、産婦が死亡してしまうことが挙げられます。母体に大きな負担がかかる出産時に、医療施設で出産に臨むことができず、きちんとした介助や産後の処置が受けられないため、感染症にかかってしまったり、衰弱したまま家事に戻ったりしてしまい、命を落とす母親が多かったのです。

 

Peru Nutrition Improvement
水牛小屋に敷く枯草を集める女性。重労働だが、こうした家事の多くは女性が担う

 

厳しい生活環境、遠い病院

ネパールの国土の3分の2ほどは山岳・丘陵地帯であり、首都近郊と南部のタライ平原を除いて、交通インフラはいまだに整っていません。特に山岳地帯では、バスなどの公共交通手段がなかったり、そもそも道路が整備されていなかったりするため、そうした地域では徒歩で移動するしかありません。
健康な男性であっても、徒歩で数時間かけないと病院に辿り着けないような村落も多く、そのような場所に住む女性たちは、病院に通うことをあきらめ、自宅で出産することを余儀なくされます。もちろん、出産前の妊婦健診なども受けられないため、自分が安全に出産できる状態なのかどうかも分からないまま、伝統的な産婆さんなどの介助に頼らざるを得ないのです。

 

Peru Nutrition Improvement
病院までのゴツゴツした未舗装の道を何時間も歩いて病院に向かう

1年目の事業地であるダイレク郡の住民の多くは川や尾根沿い、あるいは山の中に住んでいます。平らな土地はほとんどなく、どこに行くにも山を登り下りしなければならない過酷な環境です。

2年目の事業地であるカリコット郡はダイレク郡以上に交通の便が悪く、首都カトマンズからは飛行機や車を乗り継ぎ、3日近くかかる場所にあります。車の通れる道はごく限られており、多くの人々が自分の住んでいる家から車の通る道まで数時間は歩かなければなりません。

3年目の事業地であるジャジャルコット郡に辿り着くには大きな川を越えなければなりません。車を乗せて渡れる大きな筏(いかだ)のような設備がありますが、豪雨などで川が増水し、流れが速くなると危険なので筏を使うことができず、近くにかかっている吊り橋を使うしかありません。こうなると、川の対岸で新たに車やバスを見つける必要があり、車両を使った物資や人の輸送が非常に難しくなります。

いずれの事業地も、基本的なインフラや社会サービスの不備と過酷な自然環境のため、住民たちは様々な面で不便さを感じながら生活しています。また、自宅出産以外に選択肢がない場所も多く、出産後に赤ちゃんを亡くしている女性も少なくありません(特に、現在も充分とは言えないサービス環境すら無かったころに出産を経験した40才以上の女性の多くは、数人の赤ちゃんを亡くしています)。

政治的混乱の犠牲者

2000年代には国軍とマオイスト(ネパール共産党統一毛沢東主義派)との対立によりネパール全土で政治的・社会的混乱が続き、国家が管理する各種サービスに支障が見られました。医療も例外ではなく、いくつかの病院や診療所は国軍とマオイストの衝突に巻き込まれて破壊され、医療サービスの質は低下しました。
妊産婦や新生児の死亡率は改善されないまま見過ごされてきており、現在ネパールでは妊産婦263人のうち1人、新生児は25人のうち1人が亡くなっています(2008年 UNICEF)。一方、日本では出産時に亡くなる妊産婦は約17,000人に1人、新生児は500人に1人です。

この対立関係は2007年には収束しました。現在、ネパール政府は長期計画において、遠隔地や社会的に差別されている村落部における女性や小児の保健衛生状況の改善を目指し、新生児/小児/妊産婦死亡率・健康状態の改善を目標に掲げています。

 

母親と赤ちゃんの命を守る6つの取り組み

1)設備の整ったお産センターの建設

住民がアクセスしやすく、定期的に妊婦健診を受けることができ、安全な出産ができるお産センターを建設しています。このお産センターは出産への対応や妊産婦の産前産後健診、家族計画などのサービスを提供しています。お産センターが存在しない村や、現存する医療施設が老朽化している村を優先的に選んでいます。

建設したお産センター内には、出産や妊産婦ケアに必要な医療資機材も配備しています。また、電気が通じていない場所が多いため、ソーラーシステムを設置して夜間の出産や電力で動く医療器具が使用できるようにしています。

 

2年目の事業で建設したお産センター
2年目の事業で建設したお産センター
お産センターの入り口に掲げられたプレート
お産センターの入り口に掲げられたプレート
お産センターの入り口に掲げられたプレート
9人目の女児をお産センターで出産したマンクマリさん

2)郡病院へのソーラーシステムの提供

事業を行なう地域はネパールの中でも僻地であり、インフラ整備は進んでいません。郡でもっとも大きい町にある郡病院でさえ、安定した電力を確保することは困難です。郡病院にもソーラーシステムを提供して夜間のお産に対応できるようにするほか、新生児の予防接種用ワクチンが冷蔵保管できる環境も整えます。

郡病院に提供したソーラーパネル
郡病院に提供したソーラーパネル

3)公共医療機関スタッフのキャパシティビルディング

ネパール政府はリプロダクティブヘルス(性と出産に関する健康)についての知識を普及・啓発するため、郡リプロダクティブヘスルケア委員会を各郡に設置しています。この委員会の機能を強化し、安全な出産を可能とするため、委員会の活性化と機能化を目指した研修活動を行なっています。
また、村ごとに設置されているお産センターの管理・運営を担う保健医療施設マネジメント委員会に対しても研修を行ない、施設の適切な管理・運用、人材配置などについての理解を高めます。

 研修の様子
研修の様子

4)家族計画

望まない妊娠・出産を避け、安全な出産ができるようにすることは、母親と生まれてくる赤ちゃんにとって非常に大切です。お産センターを建設する村の医療従事者に対し、インプラント(避妊器具)の装・脱着の方法を習得させるための研修を行なっています。地域の医療を担う事業地の出産介助師や簡易保健所の責任者がこの手法を身につけることで、女性たちは自らが望む時にインプラント処置を受けられるようになり、子どもを持つ計画が立てやすくなります。

 研修の様子
インプラントの装着方法を練習する出産介助師

 

5)出産介助研修

大きな病院に転送することが難しい地域では、難産の場合でも村の医療従事者が対応するしかありません。そういった場合に対処できるようにするため、お産センターに勤務する出産介助師に対して吸引分娩や分娩後の出血の処置、遺残胎盤の除去方法、各種医薬品の適切な使用方法、点滴の投与法などに関する研修を行なっています。

出産介助研修を受けたサンタさんの話

 サンタさん
サンタさん

「新しいお産センターでの最初の出産が4.5キロもある大きな赤ちゃんで、なかなか生まれてこなかったから吸引娩出器を使わなくちゃいけなかった。出産介助研修で吸引娩出器の使い方を教わっていたから何とか対処できたけど、もし教わってなかったら、歩いて4時間もかかる郡病院まで搬送しなければならなかった。出産直前の妊婦さんをそんなに長い時間をかけて運ぶなんてできないし、そんなことをしたら赤ちゃんは死んじゃっていたかもしれないです」

6)母子保健に関する知識の普及・啓発

地域の人々が母子保健や性に関する正確な知識を持つことは、その地域の保健環境の改善につながります。1年目から3年目まで、それぞれの地域のニーズに合った各種研修や啓発活動を行ない、母親や赤ちゃんだけでなく、これから子どもを産み育てていく若者たちが健やかに過ごせるようになることを目指しています。

 研修を受けた女性保健ボランティア
研修を受けた女性保健ボランティア
 妊産婦健診に来た女性(左)の相談に乗る出産介助師
妊産婦健診に来た女性(左)の相談に乗る出産介助師

これらの活動により、当該地域の母親たちは、より適切なサポートの中でお産ができるようになります。

 

ネパール事業担当スタッフより

困ったとき助けてくれるのはいつもネパール人、なぐさめて元気をくれるのもやはりネパール人。色んなことを教えてくれ、経験させてくれるネパールで、ネパールのお母さんたちのために働けることに感謝しています。この事業で建設したお産センターと、知識を身につけた医療従事者によって、命を落としてしまう赤ちゃんの数が減り、悲しい思いをするお母さんが一人でも減っていくよう、最善を尽くしていきたいと思います。皆様のご支援・ご寄付をお待ちしております。

ご支援していただける方へ

ご寄付にはクレジットカード・銀行振り込みなど、様々な方法がございます。


例えば…

2000円で出産時に必要なエプロンやシート、赤ちゃんを包む清潔な布などを買うことができます。

10万円で、出産介助師が60日間の研修を受けることができます。

300万円でお産センターを1棟建てることができます。

 

 小川真以
事業担当の小川真以。お産センターの建設地に向かう途中、ヒマラヤを臨んで

事業概要

事業地:
ネパール西部ダイレク郡(1年目)、カリコット郡(2年目)、ジャジャルコット郡(3年目)
事業目的:
医療サービスを提供する環境の向上、及び住民の健康に対する意識を改善し、妊産婦・新生児の健康状態を改善する。
事業期間:
2012年2月~2015年4月
助成金:
日本NGO連携無償資金協力(2012年2月13日~2015年4月30日)

 

(2015.02.15更新)